2008年2月29日金曜日

データベース検索の陥穽 (NBonline「経営新世紀」

このコーナーで連載をすることになりました。毎回、ITや経営にまつわる話題を西岡郁夫流に綴っていきます。宜しくお付き合い下さい。
 第一回目のテーマは「データベース検索の陥穽」とした。その心は?
 いまやパソコンやインターネット無しでは仕事にも遊びにもならない。ほとんどの情報交換は社用もプライベートもe-mailになってしまったのは読者の方々もみなさんご同様だろう。
 私の場合は、新しいベンチャー支援策を考えたり、そのためのイベント案を練ったりという本業だけでなく、執筆、講演の内容作りなどもパソコン無しでは何 も進まない。紙の上にペンを構えても何も考えが浮かんでこないが、パソコンのキーボードに手を置いてWordやPowerPointやメールソフトを開く とテーマに関して何だかんだとアイディアが浮かんでくる。それを思いのまま打っていくと、それに触発されてまた新しいアイディアが出てくるものだ。こうし て出来上がっていく内容を読み返して適当に文章の順番を変えたり、表現を工夫したりと推敲を加えていくとだんだんとアイディアが固まっていく。いまこうし て作っている文章も事前に何か腹案が在ったわけではなく、テーマを決めて心に浮かぶ内容を顕在化していっているのである。
 もちろん、途中で何か情報が欲しくなる。不明確な記憶を確認したくなる。昔なら百科事典を引いたり、最悪の場合は図書館にまで行かなければならなかった 事態である。いまはパソコンがネットに常時接続されているので、すぐにGoogleに入って検索できるし、Wikipediaも強い味方だ。同じ姿勢で必 要な情報がパソコン上に入手できる。こんな便利なことは無い。しかも同じことが新幹線の中でも出来るのだ。
 仕事が捗るのはよいが疲れてもくる。週末はゴルフにでも行くか?と思うと直ぐにブックマークされたHPに入って予約状況を検索し予約をする、友達に誘い のメールを送る、ゴルフ帰りに食事となるとYahoo!グルメで検索して予約となる。多くの読者も日ごろやっておられることだが便利なことこの上無い。
 しかし、待てよ! 世の中には一方的に好いことばかりというのは少ない。諸刃の剣とか好事魔多しとか言うように好いことには悪いことが付きまとう。こんな便利なデータベース検索に落とし穴は無いのか?
 ある。便利なデータベース検索には陥穽があるのだ。
 たとえば、上司から「最近、NTTドコモがおサイフケータイで新サービス開始との新聞報道があったが当社への影響を報告せよ」と命じられたとする。発表 記事を読んでいないと、慌てて新聞を順番に取り出して探し始めることになる。「NTTドコモ、おサイフケータイ、新サービス」とキーワードをつぶやきなが ら紙面を捲っていると「GoogleがYouTubeを買収」との記事が目に飛び込む。「なにー! この方がずっと我が社に影響が大きい」と飛び上がる。と言った経験が無いだろうか。
 このように人間の検索能力は柔軟である。キーワードが一致しなくても、分野まで違っても脳は一瞬に自分の重要情報であることを嗅ぎ付ける。これは現在の データベース検索では出来ない。データベース検索ではキーワードが一致する情報があればマッシグラに直進できるが、キーワードが一致しないと実はもっと重 要な情報でも無視される。スピードは速いが曖昧な情報収集は出来ない。これは危険である。これがデータベース検索の陥穽だ。デジタルの陥穽と言ってもよ い。
 最近の若者は単細胞が多い。先生に教えられ、試験に出ることしか頭に残さない。仕事のスピードは速いかも知れないが、命じられた仕事しかしない。こんなデジタル人間がデータベース検索手法のみに慣れ親しんで、人間らしい情報処理を忘れたら、と想像すると空恐ろしい。
 デジタルで単細胞な高速検索を取るか、アナログで低速だが人間らしい検索を取るか? 答えは二者択一ではなく両者の特徴を理解して使いこなすことである。

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